残月61

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 どのみち撮影が終わったら飲み会になるのは覚悟していたが、坂口宇都宮竹野、みんな酒豪で、とても良太にはついていけそうにない。
 止めてくれる誰かも今回いないとなると、先が思いやられる。
 いつぞや坂口に連れていかれた飲み会の時は工藤やアスカや秋山もいたので、良太が調子に乗って飲んでも連れて行ってくれる人がいたのだが。
 ちぇ、工藤、今頃どうしてるかな。
 ワキの俳優陣の事務所に確認の電話を入れ、皆の了承を得るとクルーの確認をして受話器を戻し、パソコンを見ると時刻は八時半を過ぎようとしていた。
 鈴木さんもとっくに帰ってしまい、今はオフィスに良太一人である。
 向こうは朝の七時半か。
 今頃電話を入れると寝起きの不機嫌な声が聞こえてきそうだな。
 躊躇したものの、五回コールしてでなければ切ればいいか、と何だか無性に怒鳴り声でもいいから工藤の声が聴きたくなって、携帯で工藤の番号をタップする。
「何だ」
 ちぇ、もっとほかの、もしもし、とかおはようとか、言いようがあるだろ。
「あ、おはようございます。そっちは朝ですよね」
 三回のコールで出た工藤は不機嫌とも思えなかった。
「わかりきったことを聞くな。何かあったのか?」
 へいへい、地球上の当然の理なんか聞いてすみませんね。
「坂口さんから今月最終週に小樽ロケ決行の指令が出たので、二十七日には向こうに向かいます」
「今月? 雪は降るのか?」
「一応、予報ではちょうど西高東低の気圧配置でかなりな寒気団に覆われるらしいとのことで、せっかちな坂口さんがとっとと行くぞと」
「まあ、もし降らなかったら一日だけでも来月確保しろって全員に念を押しとけよ」
「わかりました」
 だよな。
「パワスポは大丈夫なのか?」
「はい、その頃にはもう日本シリーズも終わってますし」
「気を抜くな」
「はい、わかりました」
 良太の言葉が終わるや否や電話は切れた。
 それでも、工藤にしては長くしゃべっていた方だ。
「俺も声が聴きたかった…………なーんて言うわけないじゃん、あのオヤジが」
 ふうっと息をつくと、良太はパソコンの電源を落とし、オフィスの明かりを消して自分の住まいがある七階へとエレベーターで上がった。
 ドアを開けるなり、良太の帰りを待っていた猫たちがナアナアと良太の足元にじゃれる。
「おー、ただいまぁ」
 自分の食事より、まず猫たちのご飯だ。
 最近購入した自動給水機の水を取り替え、はぐはぐと夢中でカリカリを食べる猫たちを見ていると和む。
 ここのところ留守がちになので、鈴木さんがたまに覗いてくれているとはいえ、猫たちのためのグッズをネットで探すのが癖になった。
 ペットのための監視カメラなどもいろいろあるが、これを買ってしまうと、気になって仕事もおろそかになる可能性がある。
 そこはぐっとこらえて、猫も犬も好きだという鈴木さんに頼るしかないというのが結論だ。
 鈴木さんにはペットシッター料をお支払いしたいくらいなところだが、絶対受け取らないのはわかっているので、お土産はかかせない。

 


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